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Lee-Byung-hun addicted

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第9話

『I'll dream of you again』 scene9



「ねえ、おじさまに何に使うか言ってなかったの?」
揺は片手にホースを持ちもう片手には大きなブラシを持って呆れたようにつぶやいた。
「そりゃ、秘密だよ。こんなに大切にしているのにあんなことするっていったら貸してもらえるわけがない」
ビョンホンは泡だらけになりながらアストンマーチンのボディーを大きなスポンジで洗っていた。
「秘密って・・・あんな砂だらけで帰ってきたらばれるに決まってるじゃない。まあ、とにかく無事に帰ってこられてこの程度のお仕置きで済んでよかったわ。」揺はそう苦笑いしながら言った。
「でも、楽しかったろ?」ビョンホンがしたり顔で訊ねた。
「うん。最高だった・・・・感じちゃったわ。」
「あいやあいや・・・揺さん、いやらしいなぁ~」
ビョンホンはニヤニヤしながら横にしゃがんだ揺を肘で小突いた。
「だって・・・本当によかったんだもん。」
「じゃ、今夜はもっと・・・・・」
二人がしゃがんでいちゃついていると二階のバルコニーから大きな声がした。
「真面目にやらんかっ!まったく俺の彼女にあんな悪路走らせおって」
久遠寺が叫ぶ声が聞こえた。
慌てて立ち上がりバルコニーに頭を下げた二人に向かって揺が持っていたホースが冷たい水を頭から浴びせかけた。


「羨ましいわ・・・ねえ、ビョンホン君私も乗せてくれないかしら。」
朝ごはんを勧めながら響子がそういうとその場にいた一同は一斉にむせ返った。
慌ててお茶を口に運んで飲み込みながら揺が言った。
「おば様・・・それはちょっと・・・いくらなんでも過激すぎるかと」
「いやだ。揺ちゃん本気にしちゃった?冗談よ冗談」響子はそういうとやたら高らかに笑った。
(絶対半分は本気だ・・・)揺は確信した。
ビョンホンの方をチラッと見ると笑いをこらえて黙々とご飯を口に運んでいた。
久遠寺はブスッとした顔をしている。
幸太郎は面白がってみんなの顔をじっと観察していた。

「ほら、おば様。おば様はおじ様が乗せてくれるって。ねえ、おじ様気持ちよかったですよ。一回やってみたら。」
「揺ちゃん。あの車はとっても大切なのね。だからそんなことは出来ないの」
久遠寺の言葉を聞きむっとした揺は手に持っていた箸をテーブルに置いた。
「おじ様・・・車と響子さんとどちらが大切なんですか?おば様に2千万以上の価値があるとお思いなら潔く乗せてあげてください。車なんてまた買えばいい。」
揺は怒ったようにそう言い放つと箸を持ち直し黙々とご飯を食べ始めた。
「全く・・揺ちゃんは綾ちゃんそっくりだね。幸ちゃん。」
久遠寺が笑いながら揺を見てつぶやいた。
「ええ。おかげ様で。よかったよ。売れ口が見つかって。ねえ、ビョンホン君こんな怖い娘だけどいいの?」
「はい。お任せください。お父さん」ビョンホンはそう答えにっこりと笑った。
「あ・・・キラースマイル・・・。」
幸太郎と久遠寺と響子が一斉につぶやいた。
それを聞いて揺は無性に可笑しくて思い切り口の中のものを噴出した。
「汚いなぁ・・・」と一同。
「だって・・笑わせるんだもの。」
揺はばつが悪そうに布巾でテーブルを拭きながら気をそらすように久遠寺に提案した。
「おじ様、じゃ、明日の朝ね。私と彼で車また洗いますから」
ビョンホンはそんな揺を見つめてにっこりと笑った。



「バレないかな・・・」揺は心配そうにきょろきょろと辺りを見回す。
そこは横須賀線「逗子駅」のホーム。
一番前の一番人気の少ない場所に二人は佇んでいた。
「大丈夫だよ。ほら、変装バッチリだろ」ビョンホンはそう自信ありげにいうと揺の前でくるっと回った。
ビョンホンはサーフショップのオーナーから借りた明らかにカツラとわかるレゲエ風のかぶり物をかぶり怪しいサングラスをしていた。怪しげな帽子をかぶりどこで売ってるのか見たこともないような変なシャツを着てパンツのサイドには馬のたてがみのような飾りがヒラヒラとついている。
「私・・・あなたと一緒に歩きたくない。」揺は彼を見つめながらそういった。
「ほとんどあの親戚のおじさんよ。ビョンホンssi」
「ここまでやらないと見つかった時大騒ぎになるからね。」
ビョンホンは自慢げにそう言った。
「やっぱ車にすれば良かった・・」
「だめだよ。夕べも二人ともろくに寝てないし。今夜も寝られないんだから。」
そういうと怪しい格好をした男は揺の腰に手を回した。
少し離れたところに立っていた初老の男が怪訝そうにふたりに目をやった。
「もう・・・ビョンホンssiったら。」揺はそういうと彼の脇腹を肘で小突いた。

電車が来てみると日中のせいか乗客はまばらだった。
古いボックスシートの車両。
車両の一番隅のふたりがけの席に壁に向かって並んで座る二人。
「ここならあんまり目立たないし・・ねえ、窓際に座って。通路から見えないから」
揺はそうビョンホンに促した。
「何だかつまんないな・・もっとたくさん人がいてドキドキするかと思ったのに」
「やめてよ。寿命が縮まっちゃうわ」揺はそういうと渋る彼を窓際に押し込んだ。
電車が東京に向かう間ふたりは小声で話しをした。大きな声で話をすると彼の声に気がつく人がいるかもしれない。揺は用心深く彼に小声で話すように何度も注意した。
ただ、彼のささやく声はまるで子守唄のようで揺は気がつかない間に彼の肩にもたれかかり眠ってしまった。
揺がふと目覚めるとどうも横浜駅らしい。
ホームには結構多くの買い物帰りの乗客が電車を待っていた。
ホームはビョンホンが座っている窓側。
ホームに立つ年配の女性がコチラをじっと見つめている。
発車を知らせる音楽が鳴りドアがしまった。
電車がゆっくりと動き出すとホームにいた女性達がにわかに騒ぎ出す。
「ビョンホンssi・・・何してるの?」
揺が怪訝そうに彼に目をやると彼はサングラスをはずしホームに向かってキラースマイルを向けていたようだ。
「ちょっとやめなさいよ。ばれちゃったじゃない。」そういって慌てる揺。
「だって揺が寝ちゃうしさ・・暇だったから。」ビョンホンはそういうと剥いた冷凍みかんを一口にほおばった。
「どうしたの。そのみかん。」
「さっき通ったおばあちゃんがくれた。」
車両を渡ってきたおばあちゃんににっこり微笑みかける彼の姿が揺の目に浮かんだ。
ビョンホンは嬉しそうにもうひとつ皮を剥くと揺に差し出した。
「君は小学生か・・」揺は呆れたように笑ってつぶやくとみかんを受け取り一房口に含んだ。甘酸っぱい香りが口の中に広がる。
「何だか旅行みたいだね。まさか日本でこんなことができるなんて思ってなかったよ。」
ビョンホンはそうつぶやくと窓の外の走り去る風景を見つめた。
(そうだ。この人はこんな普通のことが叶わない人だったっけ)
揺はビョンホンの顔を覗き込んで微笑むと彼の手をしっかりと握った。
握り返し微笑み返す彼。
ふたりは手を繋いだままただ黙って窓の外の流れる景色を見つめていた。



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